日本の古き良き躾（しつけ）、昔から伝わる智恵を伝承している、やまとしぐさ伝承学師範の辻中公（つじなか　くみ）です。

日本では、食事などの所作法の型（かた）、季節の祭事の型を通して、生き方や心の育み方を伝え残してきました。
そんな暮らしの中で古くから伝え残されていきた「型」を、「やまとしぐさ 」と命名し、その型の意味を皆様にお伝えしています。

さて、今回ぜひ知っていただきたい「やまとしぐさ」は、「ただいま」について。

新年を迎えるにあたり、年頭に立てた志を振り返ってみました。始まりのときは意気揚々とイメージし、あれこれ計画を練るものですが、日々の暮らしの中で一年の計は忘れがちになってしまいます。
今年の目標を家族で紙に書いてみませんか？ 大きな計画から身近な計画。紙に書いてあると、その時の想いを思い出すことができます。
心の中で思っていることは風化しますが、いったん言葉にすると家族の記憶に残ります。文章にすると他人や自分に明確に残ります。
それほど言葉の力は大きいのです。

日頃使っている言葉にある日本の智恵を再認識し、今年は言葉を大切に使ってみてください。

私は、一人暮らしをしている息子に「日本語は自分の身を守るおまじないである」と伝えています。

家に帰って誰もいないと、「ただいま」を言う必要がないと思うかもしれませんが、この言葉は重要です。
「ただいま」は家に帰ってきたことを報告するだけでなく、この瞬間に無事戻ってきましたと、自分自身に語りかける言葉。その上、今を生きることの宣言でもあります。

人生いろいろありますが、嫌なことも困ったことも、玄関で「ただいま」と言うことで、その場で穢れがストンと落ちる「おまじない」なのです。
「ただいま」と言うことで自分の魂が安心するのです。

相手に発している言葉は相手と自分が聞いています。
相手には言わないけれど、心の中で呟いている言葉は、自分自身が聞いています。
つまり、発する言葉はすべて自分が一番よく聞いていますから、誰もいなくても「ただいま」は使った方が良いのです。

こんなことを聞いている息子は、言葉通りに現実化することを知っていますので、引き起こしたくない言葉を使わないように気をつけているようです。
他人のことを非難したり、悪く言っているのも聞いたことがありません。

人生はどんな言葉を使うかで決まります。
普段使っている言葉にたくさんのおまじないの意味が込められています。古来続く言葉の大切さを、さらに伝えていきたいです。

やまとしぐさ伝承学師範
辻中公