日本の古き良き躾(しつけ)、昔から伝わる智恵を伝承している、やまとしぐさ伝承学師範の辻中公(つじなか くみ)です。
日本では、食事などの所作法の型(かた)、季節の祭事の型を通して、生き方や心の育み方を伝え残してきました。
そんな暮らしの中で古くから伝え残されていきた「型」を、「やまとしぐさ 」と命名し、その型の意味を皆様にお伝えしています。
さて、今回ぜひ知っていただきたい「やまとしぐさ」は、「上のモノ、下のモノ」について。
大人数で掃除をしていると、戸惑うことがあります。
一つは、床を拭いた雑巾で机を拭く人がいるからです。
もう一つは、机を拭いた雑巾も、床を拭いた雑巾も一緒のバケツで洗う人がいるからです。
また、細かいことかもしれませんが、雑巾についた埃を取り除かずに、そのままバケツでジャブジャブ洗い、同じバケツで机を拭く雑巾を洗う人もいます。
このように、上のモノと下のモノを区別していないでいるのは、思いやりに欠けるのではないでしょうか。
脱いだ靴下を、平気で机の上に置く人。
地面に置いた鞄を、ソファーや畳の上に置く人。
自分の荷物を、平気で地面に置く人。
これらは、些細なことかもしれませんが、上のモノと下のモノを区別しないでいると、自分自身の考え方も、ケジメがなくなると思います。
私の母は、「上のモノ、下のモノ」を区別することに、とても厳しい人でした。
実家はレストランであったため、1階の玄関で脱いだ履き物を、2階の靴箱に入れる建て付けでしたので、必ず靴底の裏を拭いてから靴箱に片付けるように言われました。「家の中に入ったら、外のものは持ち込まない。でも我が家は、靴箱が2階にあるから、綺麗に靴底を拭ってから仕舞いなさい」というわけです。
こんなこともありました。
祖父の家にタクシーで向かっている時、私が車内の床に荷物を置こうとしたのです。母はすかさず、「その鞄、床に置いたらおじいちゃんの家に持って入ったらあかんよ」、と言いました。
母は私に、生活の中で「上のモノと下のモノ」を区別することを教えてくれましたから、一つずつ、鮮明に覚えています。
母が、区別することは大切だと実感していたからでしょう。
幼い頃の習慣は、大人になっても、時おり蘇ってきます。
その日のために、まず、大人である私たちが、「上のモノ、下のモノ」の区別をしていく。その姿を通して、次世代に伝えていかなくてはいけません。
やまとしぐさ伝承学師範
辻中公