日本の古き良き躾(しつけ)、昔から伝わる智恵を伝承している、やまとしぐさ伝承学師範の辻中公(つじなか くみ)です。 日本では、食事などの所作法の型(かた)、季節の祭事の型を通して、生き方や心の育み方を伝え残してきました。 そんな暮らしの中で古くから伝え残されていきた「型」を、「やまとしぐさ 」と命名し、その型の意味を皆様にお伝えしています。 さて、今回ぜひ知っていただきたい「やまとしぐさ」は、「みんな凄い」について。 私は、父の古文書(こもんじょ)の研究を受け継いで二代目木村忠義を襲名しました。その時にいただいた言葉は、「形だけを受け継ぐのではなく、心を受け継ぐように」ということです。 その言葉を受けて色々思い巡らしていると、思い出す光景があります。 それは、父が私に接してくれた「きょういく」です。漢字で表すと、共に育つ「共育」です。 私が8歳。小学2年生の頃でした。兄は11歳小学5年生で、弟は2歳でした。 父親は、きょうだいみんなを集めてこう言いました。 「さあ、お勉強をします。みんなが思う「かみ」を表現してください」。 そこで、兄は、「かみ」という文字を書きました。その時の私には、難しい漢字だったので読めませんでしたが、たしか、神様の神、ペーパーの紙、髪の毛の髪を書いていました。 私は、かみという言葉を、知っている漢字を組み合わせて書きました。 火と水で「火水(かみ)」、家という字と美しいと書いて「家美(かみ)」という具合です。 弟は、折り紙やメモ用紙、ノートを持ってきて、父に差し出していました。 私はどれが正解なんだろう、とドキドキしていましたが、父は、きょうだい一人ずつみんなに、「なるほど、面白いね」、「すごい、すごい」と褒めてくれました。 その様子を見て、子ども心に私は、「みんな凄いんだ」と感じました。 そして、お勉強なのに正解はないのかな、と疑問に思いました。 ある時のお勉強は、紙粘土を作ることでした。 私にとって紙粘土は、購入するものでしたから、作ることができるなんて夢のようでした。大きなタライに新聞紙をちぎって水に浸して、水のりを溶いて何日もかけて作ったのですが、その間、タライが居間を占領していたんです。 ある時は、家に帰ると壁じゅうに、油絵具で絵が描いてありました。 自由な父は、いつもこども達を巻き込みながら、ワクワクさせてくれた凄い人です。 しかし、いま思うと、さらに凄い人がいました。それは母です。 自由に生きる父を、支え続けていたからです。タライが居間を占領していても、壁に絵が描いてあっても怒ったことはありません。 ドーンと構えて、笑いながらすべてを認めてくれていました。 母のような心の広さは、形だけ真似ても上手くいきません。心の中でイライラしてしまうからです。心の底から認めることが本物です。 古来より、こんな風に大きな心で、「みんな凄い」と見守ってくれる存在があったから、安心して暮らせたんですね。 今回は私の父について書きましたが、皆さんのお子さんも私の父のように自由に生きていませんか。そんな時、将来が心配になったり、このままで大丈夫かな、と不安になるかもしれません。 生死に関わること、やってはいけないことは叱ることも必要です。しかし、大きく受け止める度量が必要な時もあります。大きな心で見守ることもあっていい。少し気楽に子育てすると、案外、大物が育つかもしれませんね。 このように、家庭の中で「みんな凄い」と認め合うには、お母さんの大きな心が必要です。ぜひ、お陰様の心、感謝、思いやり、尊敬、責任、信頼、の一心五心を家庭の中で伝え残してください。 これからも、一つひとつ大切なことをお伝えしてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。 やまとしぐさ伝承学師範 辻中公