日本の古き良き躾(しつけ)、昔から伝わる智恵を伝承している、やまとしぐさ伝承学師範の辻中公(つじなか くみ)です。 日本では、食事などの所作法の型(かた)、季節の祭事の型を通して、生き方や心の育み方を伝え残してきました。 そんな暮らしの中で、古くから伝え残されていきた「型」を「やまとしぐさ 」と命名し、その型の意味を、皆様にお伝えしています。 さて、今回、ぜひ知っていただきたい「やまとしぐさ」は、「信頼」について。 私には二人の子どもがいます。二人とも無事に成人しました。 一人目が娘で現在25歳。二人目は21歳になる息子です。 娘のときは、不妊治療の末にやっと授かったものですから、それはもう過保護になってしまいました。 公園で転ぶとすぐに駆けつけ抱っこし、小さな傷でも大げさに消毒をして絆創膏を貼っていました。 ですから娘は、私が少しでも見えなくなると泣き叫び、どんな時も私がそばにいないと不安がるようになってしまったのです。 そんな中、二人目を身籠りました。娘が3歳の時です。赤ちゃんを授かった喜びと同時に、出産で入院している間、娘は泣かずに過ごせるかと不安になっていました。 娘は主人と約束をしました。お母さんに心配をかけないように、入院中は「お母さんの前で絶対に泣かない」と。 私に心配をかけないように6日間の入院中、娘はいつも満面の笑顔で面会にきてくれました。 そして、弟を抱っこした瞬間、娘は「私が弟を守る!」といいました。 この言葉を聞いたとき、私は衝撃を受けたんです。 それは、娘が私に依存していたのではなく、私が娘に依存していたことに気づかされたからでした。 娘は、こんな頼りないお母さんに弟を任せておけない、自分が守らなきゃ、と思ったんです。 私が子どもを育てているつもりでいましたが、どうやら、育てられていたのは私だった様です。 その姿に私にやっと真の母性が生まれました。「信頼できる母になろう」と決めました。私がなんとかしなきゃ、子供たちを私が守らなきゃ、と思っていましたが、それはただの傲慢な独りよがりでした。親が子どもを信頼できなくて、何が子育てだ、と気づいたんです。 「母」とは、子どもを信頼し、時には手を離し、時には手を貸し、またそっと見守り、そして任せる勇気を持っている人。 自分の子どもばかりか、他人(よそ)の子も、世間の子供たちみんなを丸ごと信頼してこそ本物の母性なんでしょうね。だから、昔ながらの肝っ玉母さんなんていうのは、近所の子どもを叱ることが出来たのではないでしょうか。 実は、今でも、子育てや人間関係に迷うことがあります。そんな時は相手を「信頼」してみることで乗り越えています。 子どもを信頼できる、自分を信頼する。そんな「やまとなでしこ」の復活を私は願っています。 やまとしぐさ伝承学師範 辻中公