日本の古き良き躾(しつけ)、昔から伝わる智恵を伝承しているやまとしぐさ伝承学師範の辻中公(つじなか くみ)です。
日本では、食事などの、所作法の型(かた)、季節の祭事の型を通して、生き方や、心の育み方を伝え残してきました。
そんな、暮らしの中で古くから伝え残されていきた「型」を、「やまとしぐさ 」と命名し、その型の意味を、皆様にお伝えしています。
今回、ぜひ知っていただきたい「やまとしぐさ」は、「お辞儀で、相手との程よい距離を育む」についてです。
どなたかと向き合ってみてください。
お辞儀をしようしたら、相手とぶつからないように、自然に距離を空けますね。物差しで測る訳でもないのに、お辞儀の角度に応じて、他人との程よい距離をとることができます。日本人が握手やハグに馴染めないのは、どの相手とも、同じ近い距離だからです。
つまりお辞儀によって、相手との関係性を図る感覚が身につき、相手に踏み込みすぎず、また、踏み込まれすぎないように、程よい距離を保つことができるようになるのです。
そんな程よい距離は、お辞儀の角度によって分かります。お辞儀には、拝90度、最敬礼45度、敬礼30度、会釈15度、目礼0度があります。お辞儀の角度が深くなるほど、敬う心が強いため、近付き難い存在となり、お互いの距離は離れます。
例えば、
・拝の90度は、腰から直角にお辞儀。相手を敬う気持ちを最大限に表した、神社参拝にするお辞儀。
・最敬礼は、45度。感謝や謝罪する時の丁寧なお辞儀。
・敬礼の30度は、最も一般的なお辞儀。日常のあいさつのお辞儀。
・会釈の15度は、廊下ですれ違う時などの軽いお辞儀。
・目礼は、0度。エレベーターなど身動きが取れない時、目を伏せるだけのお辞儀。
このお辞儀の角度は、人との距離感を図るだけではなく、場の雰囲気を図ることも重要です。いつでもどこでも、同じ角度ではありません。時には近く、時には遠くの存在になる、けじめをつけることが必要なのです。
そんなけじめのつけ方を気づかせてくださった、小学校の先生のお話を紹介いたします。
しかし、どんなに話し言葉に気をつけていても、友達口調が原因で、先生に対して、ところ構わず軽々しい態度で接してくる子どもも少なくありません。それがある行動によって程よい距離を育むことができると知ったのです。それは、入学式や卒業式、家庭訪問や参観日、などのように、親と子が私たち教師と同時に会う機会があります。その時、私のところまでわざわざやってきて「お世話になりました」、「ありがとうございました」、と深々とお辞儀をしてくださる親がいます。
子供は、親が先生に丁寧に礼儀正しく接するのを目の当たりにし、自然に背筋を伸ばすんです。相手の立場や場の違いを、この時に感覚で知るんでしょうね。そうやって知ることで、普段軽々しく先生に接していた自分を反省します。ときには子どもと一緒に挨拶をしてくださる親御さんもいて、わんぱくな子どもが親を習ってぎこちなくともきちんと挨拶してくれます。
このような親の行為が、子供にけじめというものの存在を教えていく道筋なのだと気づきました。
ですから、毎日の始業終業の挨拶や終業式や新学期の校内行事には、しっかり子供たちにお辞儀をするようにしています』
どんなに親しい間柄であってもお辞儀を通してけじめをつけることが良好な人間関係に繋がります。
先人は、お辞儀という「型」を通して、相手との程よい距離を育む智恵を、残してくれました。
これからも大切な先人からの智恵を、発見して参ります。
やまとの智恵実践協会
代表理事 辻中公