初秋の九月、「大阪は新町で生まれた新派」「二つのお芝居の違いを色濃く出した方がお客さまに二度おいしいと思っていただける」云々の俳優陣の言葉に心惹かれ開演を待った。一作目はミステリーの古典、江戸川乱歩の「黒蜥蜴（緑川夫人編）」。講談師・悟道軒円玉の語りで筋が進行。演ずるは喜多村緑郎（元歌舞伎役者）、明智小五郎との二役で物語の要。宝石「クレオパトラの涙」を巡って黒蜥蜴とあの手この手の攻防戦あり、果ては通天閣にまで舞台は移り大阪色満載。緑川夫人（実は黒蜥蜴）役の河合雪之丞は、和装姿も艶やかで明智小五郎との丁々発止のタンゴは素晴らしかった。二作目は山田洋次原作脚本演出のホームコメディ。三世代同居の祖父母に何と離婚話が持ち上がり、皆口をあんぐり。妻役の水谷八重子、夫・田口守が通う「かよ」の女将・波乃久里子。大御所三人のオーラが静かにぶつかり合う。 （はるる）